慢性呼吸不全

慢性の呼吸器の病気、たとえば若いころにひどい肺結核をわずらったり肺の切除をした人や、COPD(肺気腫[はいきしゆ]、慢性気管支炎)、びまん性汎細気管支炎*[はんさいきかんしえん]といった閉塞性[へいそくせい]の肺疾患[はいしつかん]*や、肺線維症などでは、慢性的な低肺機能をもたらします。こうした病気のゆっくりした進行によって、呼吸不全に陥ることがあります。また、加齢はそれ自身が呼吸機能を低下させるため、低肺機能の人は高齢になることによって呼吸不全に陥ることがあります。

このような呼吸不全は、急性呼吸不全とは病状も対処のしかたも違うもので、慢性呼吸不全といわれます。

びまん性汎細気管支炎

日本人に多い呼吸細気管支が詰まってしまう病気で、慢性副鼻腔炎〈まんせいふくびくうえん〉(蓄膿症〈ちくのうしょう〉)の人にみられます。

閉塞性の肺疾患

空気の通り道である気道に抵抗があって、空気が通りにくくなる病気のことをいいます。

低酸素状態に心臓が慣れることはない

慢性呼吸不全のおもな症状は、運動時の息切れです。もちろん、息切れが、すなわち呼吸不全ではありません(例えば、COPDなどでは安静時には動脈血の酸素分圧が正常であっても、息切れが強く現れることがあります)。息切れには、「階段を上ったときに息苦しい」といった軽いものから、「着替えをしたり、トイレに行くことも苦しくてしかたがない」といった重症のものまで、いろいろな段階があります。

こうした息切れは何年もかかって現れるため、慣れたりがまんしたりすることもできます。しかし、血液の低酸素状態に、心臓やからだの諸臓器が慣れることはないのです。

治療の基本は在宅酸素療法

低酸素状態がつづくと、肺を流れる血管が細くなって、血液を流す抵抗が強まります。その結果、肺へ血液を送る心臓(右心室)が拡張して心機能が低下します。慢性呼吸不全がつづいた結果として生じる、こうした心不全を肺性心と呼んでいます。肺性心になりますと、むくみ(浮腫[ふしゆ])や不整脈が生じ、放置してさらに進行すれば生命にかかわります。

慢性呼吸不全の治療の基本は在宅酸素療法です。肺性心があれば、利尿薬や強心薬が使われることもあります。

在宅酸素療法


慢性呼吸不全の重要な治療法のひとつとして、家庭での持続的な酸素吸入が行われています。現在わが国では10万人以上の人が、この在宅酸素療法(HOT)を受けています。

酸素吸入は心臓の負担を軽くする

私たちの呼吸している空気には、21%の酸素が含まれています。酸素吸入はその濃度をさらに高めたものを吸入することによって、体内の酸素の量を増やします。酸素濃度をわずか1%増やしただけで、動脈血の酸素分圧は7トルも上昇します。酸素吸入によって、酸素を取り込む能力の低下した呼吸不全者の動脈血酸素分圧を、正常に近い値にすることができるのです。

酸素吸入は、かつては急性の呼吸不全に対して救命・救急処置として使われるだけでした。しかし、最近の研究によると酸素吸入は、肺を流れる血流の抵抗を下げることによって心臓の負担を軽くするなど、慢性呼吸不全者にとって身体的によい効果のあることがわかってきました。

また、1日のうちできるだけ長い時間、できれば24時間吸入したほうがより効果的であることも知られています。そのためには、家庭で日常生活をしながら酸素を吸入する在宅酸素療法が必要となります。健康保険での適応基準は表3―5を参照してください。

酸素濃縮装置が使われる

慢性呼吸不全で、医師から在宅酸素療法の適応であるとされた場合には、それぞれの患者に見合った酸素の濃度や吸入量、療養のしかた、器具の使い方などの指導を受け、業者と連絡をとって必要な器具や装置を自宅へ設置します。在宅酸素療法をするときは、少なくとも1カ月に1回は本人(または家族)が外来受診する必要があります。

酸素供給装置には、昔からの酸素ボンベがありますが、6000Lの大型ボンベを使っても連続して吸入すると数日でからになるため、現在では酸素濃縮装置が広く使われています。これは、空気から窒素を取り除くことによって酸素を濃縮するもので、電気で動かす装置です。

小型化により旅行も可能

そのほか、液体酸素もよく使われています。これは家庭に小型のタンクを置いて、そこからガスになった酸素を吸うものです。液体酸素は、ボンベに比べてガスになったときの容量が5〜6倍もあり、業者への充填[じゆうてん]依頼の回数が少なくてすみます。

また、もっとも大きな利点は、外出のときに用いるポータブルタンク(約3kg)への液体酸素の移し替えが、家庭で簡単にできることです。このポータブルタンクを使えば、6〜8時間の外出が可能です。

外来通院などに使われる小型のボンベも保険で認められていますが、2時間くらいでからになります。そのため、息を吸ったときだけ酸素が流れるようにする器具を取りつけて、5〜6時間連続して使える工夫もされています。

現在では小型酸素ボンベの交通機関への持ち込みが認められています。飛行機も可能です。